医療的ケア児を担当する学校に配置された看護師
地域の教育現場を支える看護師の魅力
看護師が活躍する場所は、病院や診療所だけでなく、特別支援学校や小中学校など多岐にわたります。今回は、大阪府豊中市の公立学校で、医療的ケアが必要な子どもを支えている看護師歴16年のY.Kさんに、医療的ケア児の看護とやりがいについてお話を伺いました。
※記事は2020年度に取材したものです。
医療的ケア児が同級生と一緒に学ぶ姿に感動
医療的ケア児とは、医療的ケアを受けながら、家庭で日常生活を送る子どもたちのことです。私は学校で、看護師として豊中市の公立小中学校に通学している医療的ケア児に、医療のサポートを行う仕事をしています。医療的ケア児が通院している病院の主治医が作成した「学校における医療的ケアの指示書」に基づいて、学校で医療的ケアを行います。胃瘻からの経管栄養、気管内吸引が必要なお子さんや、人工呼吸器を付けているお子さんなど、学校生活の中でも、それぞれのお子さんの病状に合わせた適切なケアが必要です。現在、豊中市には12名の医療的ケア児がいます。豊中市における「学校に配置された看護師」の体制としては、巡回制度を採用していて、非常勤の看護師20名が日替わりで医療的ケア児が在学している小中学校を巡回しています。20名の看護師が、12名の医療的ケア児を看護する形になるため、各学校に設置されている医療的ケアカルテで情報共有を図ります。また、学校に配置された看護師は、教育センターで週に1回開かれるカンファレンスに参加し、子どもたちの状態や情報を共有しています。時々、「学校で働く看護師は勉強の補佐もするの?」と聞かれることがありますが、豊中市では、勉強の補佐をすることはありません。授業の補助などは学校の教職員が担当するので、勉強をみる人と看護をする人の役割は明確に分かれています。
学校で働く看護師になって3年になりますが、実は私自身、数年前まで、医療的ケア児が普通の公立小中学校に通えるということを知りませんでした。私の子どもが通う小学校でPTAの役員をしていたのですが、初めて学校で働く看護師の存在を知ったときは「こんな制度があるんだ。すごい!」と、衝撃を受けましたね。同時に、学校で働く看護師の仕事にとても興味を持ちました。その後、学校で働く看護師になり、医療的ケア児が同級生と一緒に学んでいる姿を見たときは、とても感動しました。また、周りの友達にとっても、医療的ケア児と触れ合うことで新たな学びがあり、彼らの成長にも繋がっていると思います。私の看護に関する知識や経験が、学校という場所で子どもたちの役に立っていることが嬉しいですね。とてもやりがいのある仕事だと感じています。
地域医療や在宅医療の知識を持ち、常にスキル磨きを
学校に配置された看護師は、ワークライフバランスが取りやすい仕事だと思います。教育の場に合わせた曜日や時間帯の勤務となりますから、土日祝日や夏休みなどは仕事もお休みになります。子ども4人を育てている私にとって、子どもたちの生活リズムに合わせた働き方ができるのは、とても助かっています。
一方で、学校で働く看護師ならではの不安もあります。病院に勤めているときは、何か困ったことがあればすぐに医師や先輩看護師などに相談できる環境でしたが、学校は医療現場ではなく教育現場です。地域医療や在宅医療などの幅広い知識も必要ですし、学校で緊急対応ができるのは医療知識を持つ私だけです。そのような環境に身を置くことにプレッシャーを感じることはありますが、豊中市では2名の常勤看護師が教育センターに在籍しているので、何かあればすぐに報告・連絡・相談が可能です。一人で学校にいる看護師をバックアップしてもらえる体制は心強いですね。さらに、教育センターでは学校に配置された看護師を対象とした勉強会が定期的に開催されていますし、医療的ケア児が実際に使用している人工呼吸器のメーカーから、器械の取り扱い方法を教わる機会などもあります。
病院では、医師や看護師が主体となり、患者さんの回復を目指してケアを提供しますが、
学校で働く看護師の場合は、子どもたちを支える「存在」になることが大切だと思っています。学校においての主役は、医療的ケア児とその保護者、そして教師です。保護者と教師は、教育の一環として医療的ケア児の自立を促す取り組みをしています。私たち学校で働く看護師は縁の下の力持ちとして、子供の成長発達を把握し、必要な医療行為やアドバイスを提供し、影で支えていく必要があると思います。
看護の力は病院だけでなく、地域の教育現場にも役に立っていることを、看護師として誇りに思いますね。これまで病院勤務で培ってきた知識や技術を、これからも地域に還元していければと考えています。
プロフィール
Y.Kさん 30代女性
看護師歴16年。国立の看護学校を卒業後、急性期病院で約3年間勤務し結婚。ご主人の転勤や出産などで一度職場を離れるが、復帰後は、慢性期病床がメインの病院に7年間勤め、現職にキャリアチェンジ。仕事も育児もスマートにこなすエネルギッシュな4児のママ。